コラム”花曇りとアンドレ・ギャニオン”
誘導灯の灯りが瞬く滑走路を、離陸に向けてゆっくりと動き出す飛行機。
そして直線コースに入り、徐々に早まるスピードとエンジン音が離陸の時を告げる。
それが切なさなのか、希望なのかはわからないけれど、何かを胸に抱きしめながら飛行機のシートに身を任せて目を閉じる。
大地と離れて行く感覚は、心の中にある「何か」との別れ。
季節は春、花曇りのどこまでもアンニュイな空に向かって飛び立っていく・・・
S先生が弾いて下さったピアノをうっとりしながら聴き終えて、私の中に広がったそんな情景を先生にお伝えした。
あの時の先生との会話を今でもはっきりと覚えている。
それは私にとって3曲目の課題となるアンドレ・ギャニオンの「ぬくもりにふれて」。
S先生は、私と娘にとって人生初めて師事したピアノの先生だった。
娘が3歳を迎える春に、母娘そろってS先生のピアノ教室に通い始め、娘は「ピアノランド」を、私は「バイエル」をそれぞれ習い始めた遠い日。
その後娘は先生のインスピレーション通り、憧れでもあり夢でもあった国立音大へ進み、私はといえば未だバッハのインベンションをウロウロしている。
アンドレ・ギャニオンを現代のショパンという人もいるけれど、厳かなストリングスを背景に織りなされる繊細なメロディーには、カナダの豊かな自然と留学先のパリのエスプリが溶けだしている。
だから彼の音楽の中には季節があり、誰の心にも本当はある痛みや悲しみをさりげなく包み込むような、愛しい人の胸のぬくもりや優しさを思い起こさせてくれる。to be continued
文・写真 堀内利子(ハーバルセラピスト)